アメリカでの仕事は凄く合理的だった。

アメリカの企業に就職中、抱えていたプロジェクトの数は実に20社を超えていた。全てが同時に動いているワケではなかったが、ほぼフル稼働の毎日だった。わたしの仕事はデザイン会社から送られてきた英語版データに、社内で翻訳された日本語のテキストを流し込み、日本語用印刷機に送り、印刷用のCMYK四版フィルムを作成することだった。

仕事が入ると、まずは見積もりから始まる。金額ではなく、時間の見積もりである。デザイン会社から送られてきたデータの確認に1時間、印刷機でのフィルム作成に3時間、確認に1時間、データをクライアントに送るための準備に1時間等々……。

この見積もられた時間をベースに作業は進められていき、社員達は皆、スケジュール管理ソフトへの入力が義務付けられていた。このソフトに15分刻みで何をしていたかを記録していくのだ。例えば「A社の印刷用フィルム作成に全部で6時間かかる」と見積もりを出した場合、営業担当者はその制作にかかる見積もり時間(=人件費)を元に、クライアントへの見積書を作成する。というわけで「作業時間は6時間かかる」と我々、制作サイドが見積もり時間を決定した場合、とにかく6時間で終えなければ、純利益が減ってしまう、というシステムであった。

全体会議ではパイチャートが用意され、各プロジェクトに費やした制作時間、クライアントから入った金額などが記載されており、純利益が一目瞭然となる仕組みであった。なんらかのトラブルにより、制作時間がこの6時間を越えてしまうと、そこから先は余分にかかった人件費により、純利益がどんどん減っていくという仕組みで、プロジェクトが始まる前の、この見積もりは結構、重要であった。

例えばページ数の少ないカタログで、日本語の文字を流し込む以外、特にこちらがデザイン的に手を加える必要がなければ、そんなに時間はかからない。

ところが中には200ページ近くにも及ぶ取扱説明書や、その中に含まれるロゴを日本語風にデザインしなければならない等の作業もあり、その場合、『ロゴ制作に3時間』などと、見積もりを出す必要があった。営業担当者は、この時間を元にクライアントへ見積もり金額を渡す仕組みで、勿論、この見積もりタイム自体も、各プロジェクトの作業時間に含まれる。このような徹底した時間管理の元、社員達は自分の時間配分を自分で決め、フレックス制ということもあり、朝はだいたい10時頃出社し、夕方6時過ぎには退社していた。

その後、日本のデザイン会社にて、ほとんど成り行き任せの時間配分で仕事をする事となり、実に合理的な時間の使い方だったと、改めて実感した。