アメリカの企業に就職中、抱えていたプロジェクトの数は実に20社を超えていた。全てが同時に動いているワケではなかったが、ほぼフル稼働の毎日だった。わたしの仕事はデザイン会社から送られてきた英語版データに、社内で翻訳された日本語のテキストを流し込み、日本語用印刷機に送り、印刷用のCMYK四版フィルムを作成することだった。

仕事が入ると、まずは見積もりから始まる。金額ではなく、時間の見積もりである。デザイン会社から送られてきたデータの確認に1時間、印刷機でのフィルム作成に3時間、確認に1時間、データをクライアントに送るための準備に1時間等々……。

この見積もられた時間をベースに作業は進められていき、社員達は皆、スケジュール管理ソフトへの入力が義務付けられていた。このソフトに15分刻みで何をしていたかを記録していくのだ。例えば「A社の印刷用フィルム作成に全部で6時間かかる」と見積もりを出した場合、営業担当者はその制作にかかる見積もり時間(=人件費)を元に、クライアントへの見積書を作成する。というわけで「作業時間は6時間かかる」と我々、制作サイドが見積もり時間を決定した場合、とにかく6時間で終えなければ、純利益が減ってしまう、というシステムであった。

全体会議ではパイチャートが用意され、各プロジェクトに費やした制作時間、クライアントから入った金額などが記載されており、純利益が一目瞭然となる仕組みであった。なんらかのトラブルにより、制作時間がこの6時間を越えてしまうと、そこから先は余分にかかった人件費により、純利益がどんどん減っていくという仕組みで、プロジェクトが始まる前の、この見積もりは結構、重要であった。

例えばページ数の少ないカタログで、日本語の文字を流し込む以外、特にこちらがデザイン的に手を加える必要がなければ、そんなに時間はかからない。

ところが中には200ページ近くにも及ぶ取扱説明書や、その中に含まれるロゴを日本語風にデザインしなければならない等の作業もあり、その場合、『ロゴ制作に3時間』などと、見積もりを出す必要があった。営業担当者は、この時間を元にクライアントへ見積もり金額を渡す仕組みで、勿論、この見積もりタイム自体も、各プロジェクトの作業時間に含まれる。このような徹底した時間管理の元、社員達は自分の時間配分を自分で決め、フレックス制ということもあり、朝はだいたい10時頃出社し、夕方6時過ぎには退社していた。

その後、日本のデザイン会社にて、ほとんど成り行き任せの時間配分で仕事をする事となり、実に合理的な時間の使い方だったと、改めて実感した。

アメリカの企業では基本的に交通費は出ない。自分持ちになるので、仕事が決まったら職場近くに引っ越してくる社員は多い。

大企業ともなると会社から通勤専用の企業バスなども出るのらしいのだが、そうでない場合、やはりマイカー通勤が大半である。ちなみにカリフォルニアでは朝の通勤ラッシュを防ぐため、一部区間でカープールレーンが設けられている。乗車人数が二人以上の車に限り、走行可能な車両なのだが、大渋滞の中、このレーンを使ってスイスイ飛ばせるのは、やはり有り難い。

なので、朝は近所に住む同僚と、交互に車を出し合って通勤していた。

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(ちなみに、写真はタイ・バンコク近郊の水上マーケットに行ったときの写真。)

以前、助手席に大きな人形を乗せて、このカープールレーンを堂々と走行していた人がいたようだ。もちろん人形はカウントされないので犯罪である。長年の蓄積から、罰金200万円以上を課せられる重罪になったとニュースで報道していた。

この視点から考えると、日本の交通網、特に電車や地下鉄、路面バスの乗り継ぎはとても有り難い。会社側がちゃんと交通費を支給してくれるところもナイスである。

が、朝の通勤ラッシュはやはり戦いである。日本帰国後の再就職早々、久々のラッシュアワーに吐きそうになった。他人と身体が接触することを良しとしないアメリカで、9年近くも暮らしてきたから、なおさらかもしれないが、足を踏んづけても、肩がぶつかっても、肘鉄を食らわせても謝らない日本人に本気でブチ切れかけた。

外国でも、日本の通勤ラッシュの様子は話題になるらしい。朝っぱらから駅員さんが必死で乗客の背中をぎゅうぎゅう押しながら、社内に押し込む図に『これが日本のサブウェイでの駅員の仕事』といったタイトルで雑誌か何かに写真が掲載されていたのを見かけたことがある。海外就職を終えて、日本で雇用された人達がまず受ける、逆カルチャーショックの洗礼とも言えよう。

また他人とのボディタッチとは、ちょっと関係ないのかもしれないが、アメリカでは、だいたいどこの企業も自分専用の電話を一台与えられるのが一般的である。なので、同僚とはいえ、他人宛にかかってきた電話を「おーい、加藤さんに内線3番!」などと大声で呼ぶというのは有り得ない。個人主義が徹底しており、名刺には必ず内線番号が記載されている。日本でも個人の内線をもらえる企業は多いと思うが、ない企業もまた多いという事に気づき、少々驚いた。以上が日本とアメリカでの就職の際における、わたしが受けた小さなカルチャーショックの数々である。

アメリカの企業で数年、仕事をした後、日本で再就職してからというもの、逆カルチャーショックの連続だった。

中でも驚いたのがタイムカードである。わたしの知っている限り、アメリカにタイムカードは存在しない。フレックス制というのが基本で、就業時間はだいたい10時ぐらいから18時ぐらいまで。19時ともなると、早く帰れとせっつかれたりしたモノだ。そんな、せっつくあなたにも「早く帰れば?」と言ってあげたいくらい。皆、夕方になるとゾロゾロと帰っていく。

個人の責任と言えばそれまでだが、わたしはこれが本来あるべき姿のように思う。確かに労働基準法に違反していないかをチェックするためにも、タイムカードは必要である。我ら日本人は残業が当たり前という国民性なだけに、タイムカードの存在意義は大きい。

だが、そもそも「残業は極力しない」という風潮であれば、タイムカード自体、必要ないと思う。

どんなに忙しくても、夕方6時頃になると、結局、仕事を切り上げて帰っていく同僚達を尻目に、わたしは少しでも多くの仕事をこなそうと、いつも帰宅は最後の方だった。

タイムカードは無かったけれど、一日のスケジュールを管理するソフトへの記入が義務付けられており、週単位で、どのプロジェクトに、どのくらいの時間を費やしたか、一目瞭然で分かる仕組みになっていた。当然のことながら、帰宅時間も記入することとなる。

なので、上司からも「そんなに遅くまで残っていないで、なるべく早く帰りなさい」と注意されることもしばしばだったが、所詮、就業時間は10時〜19時前後である。その割に給料は日本の1.5倍を軽く越えていたのだから、今、考えると「素晴らしきかな、アメリカでの就職時代」である。

帰国後に就職した日本の企業では、朝9時半を1分でも遅刻した日には、タイムカードの始業時間部分に赤で丸を付けられた。

「遅刻ですよ」

という、無言のダメ出しである。たかが1分の遅刻で何が変わるというのか。9時30分なら良くて、9時31分じゃ、何がダメなのか。大人なんだから適当に自分で調整すれば済む話であり、朝の1分をめぐって、社員が一斉にタイムカードに群がる図式に、本気で憤りを覚えた。

しかもほぼ毎晩、帰宅時刻は終電間近で身体は悲鳴をあげている。

「朝っぱらからタイムカードごときで全力疾走できるかい!」と、すっかり鼻白んでしまった。

アメリカで最初に就職すると、日本の企業が皆、ブラック企業に思えてくる。もし、あなたが海外での仕事を辞めて、日本での再就職を望むのであれば、まずは外資系をオススメする。コテコテの古い体質の日本企業に就職すると、仕事以上にカルチャーショックの大打撃が待っている危険性は高い。

以前、アメリカで働いていたときに、日本の翻訳会社から出向社員が1人やってきた。二ヶ月という期間限定での出向だったと記憶している。

初日、社内の関係部署に送られてきた、彼の挨拶メールを見て驚いた。そこには難解極まりない単語が並び、隣の席のロシア人の同僚も「ワオ!」と、声をあげていた。

このロシア人は数カ国語を自在に操る人物なのだが、そんな彼女も真っ青の「ワオ!」な語彙力だったのである。当然、わたしには理解不能な単語がいくつもあり、とにかく勘とニュアンスで、どうにか読み切った。

そんな語彙力豊富な出向社員であるから、当然、英会話も出来るものとばかり思っていた。日本に興味のある外国人も多いので、挨拶がてら、早速話しかけにいく社員もいた。が、しかしである。彼の返答は大層短いか、または笑顔でスルー……。かろうじてメールで挨拶を返した社員には、「これでもか」ぐらいのご丁寧な返信メールが送られてきたそうだが、会話のキャッチボールに関しては、ほとんど返ってこない。しまいには心配した社員が、違う階で作業していたわたしを「同じ日本人なんだから、ちょっと見に来てくれないか」と、わざわざ内線で呼び出す始末である。

「もしかしたら、体調でも悪いんじゃないのか。さっきから、まるで貝のように黙ったままだ」 「緊張してるんでしょ、きっと」 「いやいや、それにしても全くしゃべらないぞ」

すぐに謎は溶けた。早速、皆が「とりあえず行って来い」というのでランチに誘ってみたところ、元気に即答で「オーケー」の返事。その後、近所のSUBWAYで買ってきたサンドイッチをほうばりながら、とにかくしゃべる、しゃべる。もしかして、聞いちゃマズイのかなとも思ったが、午前中、なぜ社員達としゃべらなかったのか、軽く尋ねてみたところ、案の定「苦手なんですよね、英会話。もう全然ダメで……」とのことで、体調不良でも何でもないことが分かり、少しホッとしたのを覚えている。

日本でも最難関と言われる某大学院を卒業し、今回は宇宙のサテライト(人工衛星)関連の翻訳の仕事で、遠路はるばるシリコンバレーまでやって来たのだ。当然、専門知識がないと訳せない分野なので、きっと膨大な知識を持ち合わせているに違いない。でも、英会話という言葉のキャッチボールに、そこまで難解な単語力は必要なく、かえってコミュニケーションの妨げとなることもある。コミュニケーション力とは往々にして実践でしか学べないものであり、机上でいくら知識を詰め込んだとしても、言葉の壁を崩す事は出来ないと悟ったのだった。

(相槌として)「……なんか、まあ、そんな感じですね」

これ、我々の日常会話の中で、フツーによく聞くフレーズだと思うのだが、英語で言うと「……somethig like that」となるであろうか。欧米人にとっては実に曖昧なフレーズであり、これを使うと、相手から「……somethig like ……what?」と聞き返されることが、しばしばあった。

その結果、外国人相手に「あ、うん」の呼吸は有り得ないと悟った。重要な会話などでは、特に「そんな感じですかね〜」などと濁さない方がよい。「そんな感じって、どんな感じなの?」と、真顔で聞き返されるのがオチである。 日本人が外国人と肩を並べて働くためには、いくつもの壁がある。

語学力がぐんぐん上達する人の特徴 7パターン

コミュニケーションの壁就労ビザの壁メンタルの壁文化の壁などがそうだ。

こう書くと、海外就職とは実に敷居の高いことのように感じる人も少なくないと思うが、決してそんな事はない。

人は慣れる生き物であるから、こういった壁のほとんどは、海外に行けば、おのずとドンドン低くなる。また『コミュニケーションの壁=語学力の壁』と捉えがちだが、それもちょっと違うとわたしは思う。我々、日本人の勤勉さも手伝ってか、とかくTOEICやらTOEFLやらSAT、他にも色々と語学力を評価する国際的な試験はあるのだが、まずはそういったテストで高得点を狙おうとする方々も多いと聞く。

これらの勉強は、やればやる程ズレていき、はっきり言って時間の無駄である。

まず、こういった試験に出てくる単語は日常会話では使わない。

下手すりゃ、現地の外国人ですら知らない単語テンコ盛りで、逆に意味を聞かれる始末である。さらには高得点を弾き出せば出す程、おそらく語学に対しての恐怖心も増すんじゃないかと思う。なんでもそうだが、机上の空論よりは現場での経験が大切であり、知識と知恵は全然違う

巧みに会話を切り返す技や知恵は、どんなに試験で知識を磨いても身に付かない。キャッチボールが出来るようになるには、練習するしかないのと同じで、言葉のキャッチボールは相手があってこそ、成り立つ。

メンタルの壁と同様、コミュニケーションの壁を取り払う鍵は、「まあ、なんとかなるっしょ」という前提での実践の積み重ねで、こういった精神があるのとないのとでは、海外生活において、雲泥の差が出るように思う。すなわち、毎日が失敗の連続と言っても過言ではない中で、いちいち「間違えた、通じなかった」と、落ち込んでいては身が持たない。ある程度の準備が出来たら、あとは恐れず、まずは現場に飛び込んでみるのが一番早い。案外、どうにかなってしまうモンなんである。

以前にも述べましたがアメリカで就職するためには、それなりの就労ビザが必要で、このビザ取得のためにはいくつかの方法がある。

現地の大学でBA(Bachelor of Arts=日本の四年制大学卒に相当するビザ)を取得し、そのまま企業に就職する方法もあれば、日本の企業に就職して日本企業を通じてJ1ビザを取得し、アメリカ本国での就職を可能にする方法もある。

その他、例えば現地の大学を出ておらず、BAを持っていなかったとしても、企業がスポンサーとなってワーキングビザ(H1ビザ等)を取得することが可能となる。

他にも『サード・エバリュエーション・システムの利用』という手もある。

またグリーンカード(永住権)を取得してしまえば、職種に関係なく、アメリカで仕事に就くことが可能だ。


ちなみに大学を卒業して得られるBA(Bachelor of Arts)使用による就職には条件がある。それは大学の専攻科目以外の職種には就けないということだ。美術大学のグラフィックデザイン科を卒業した場合、その後の就職先はデザイン系の会社に限られるし、法学部卒業者なら、就職先は法律関係の職種に限られる。

BA使用の就職以外にも、わたしの知り合いにアメリカで日本語を教えていたという男性がいる。彼はアメリカ現地で採用された日本語講師ではなく、日本の企業を通じて、アメリカに派遣された講師であった。そのため、給料も日本の雇用先から出ており、J1ビザも日本の企業を通じて取得したビザだった。ちなみに、このJ1ビザとはアメリカ情報局により認められた、交換プログラムに参加する際に発行されるビザである。主に研究員や職業訓練生などが該当するそうなのだが、アメリカでの就職を希望する場合、この知人のように、まずは海外(特にアメリカ)派遣のある日本の企業に就職するのも一つの手である。

ただ、このJ1ビザ終了後、日本に一旦帰国してしまうと、最低でも二年間はアメリカに住めなくなるとのこと。理由は『今後は日本に滞在し、まずはアメリカで学んできた事を日本国内で広めてくださいね。』ということが関係しているらしく、アメリカにてJ1ビザで就労中、現地で恋人なんぞを作ってしまった場合、二年間は辛い遠距離恋愛が待っているハメになり、少々注意が必要だ。相手が日本に引っ越してきてくれるのなら、話は別になるのだが、そうは簡単にいかないことがわたしの周りでは多く聞いた話である。

「残業、残業の毎日で参っちゃいますよ、ホントに……」

日本の職場でちょくちょく耳にする、このセリフ。実は、私がシリコンバレーの職場で働いていたときにはタブーなセリフであった。

社長やノルウェー人の上司曰く「OT代の高い人材=仕事のペース配分がうまく出来ない社員である」ということで、わたしはなるべく定時に上がるよう心掛けていた。

ちなみにOTとはOvertimeの略で『残業』を意味する

会社側は残業代として通常の1.5倍〜2倍の給料を支払う義務があり、OTが嵩む社員に対しては「余計な出費を出す社員」という風潮を作り上げ、全力で人件費の削減を目指していたのだ。

こっちだって、したくて残業しているワケでもないのに、余計な出費を増やす社員などと扱われ、理不尽この上なかったが、慣れてしまえば、この合理的な考え方も悪くない。一日のスケジュールが立てやすいというか、仕事の後に「ジムへ行こう」などと、計画を立てる余裕すら出てくる。

この状態に慣れたまま、日本へ帰ってくると悲劇である。

例えば、わたしはデザイナーなのでデザイン会社に就職したのだが、上司が帰るまで、部下達は帰宅できなかった。『何もやることがなくても』であり、これにはさすがに閉口した。20時を過ぎても、当の本人は呑気に新聞なんぞ読んでいたりする。(そんなの家で読みゃいいじゃん!)と、何度、心の中で叫んだことか……。

今となっては笑い話だが、欧米人の個人主義、合理主義というのは、ある意味、徹底しているように思う。

結婚記念日だからと、忙しい中、仕事を早々に切り上げて帰ってしまう部下なんぞは序の口、出社時間はフレックス制ということで、だいたい社員は午前10時前後に出社してくるところ、一人だけ朝7時に出社し、夕方4時には切り上げてしまう営業部の女性がいた。聞けば「フリーウェイのトラフィックジャム(交通渋滞)が嫌いだから」ということで、開いた口が塞がらなかったのを覚えている。仕事に支障が出ない範囲での、OT無しの彼女なりのペース配分ということで許されていたのだが、いやはや、このマイペースっぷりというか、主張の激しさには毎度、驚かされる事も多かった。

帰国後、日本人の勤勉さや謙虚さに触れるにつれ、逆カルチャーショックを受けたものだが、外国人達と働くということは、語学力含め、こういった個の主張的なモノも要求されるということである。すなわち、自分も同じように主張出来るだけのメンタルが必要なワケで、この感覚を引きずったまま、日本で企業に再就職すると、必ず一度は泣くハメになると、誰もが言う。おどかすようで申し訳ないけど。

最近、日本における男性の育児休暇を取得する割合が、年々増加傾向にあると聞いたことがある。巷の女性誌では『今月のイクメン』などという特集も組まれたりして、もはや『家事も育児も奥さん任せ』な時代は終わりつつあるのかもしれない。これからの日本でも女性だけでなく男性が積極的に育児への参加をしていかないといけなくなるのだと思います。

私が住んでいたアメリカでは、共働きが主流の国なので、育児休暇を取得するのは当然である。奥さんの休暇をマタニティリーブ、ダンナさんの休暇をファミリーリーブと呼び、そして皆、当たり前のように申請している。また会社側も当たり前のように許可をしている。

3人に2人が休まない!日本と大きく違うアメリカの「産休」事情

ちなみにマタニティリーブは文字通り、妊娠、出産、子育てのための育児休暇だが、ファミリーリーブに関しては育児以外の理由、例えば家庭内での諸事情などが理由であっても、休暇申請することが可能であり、育児休暇である約6週間のお休み期間中、全額ではないが給料を保障してもらうことが可能である。

アメリカでの就職中、もしも妊娠した場合には、ぜひともこういった制度を利用するべきだろう。基本的にアメリカには少子化問題はないので、地方自治体や政府による出産育児給付金的制度はないものと心得ておいた方がよい。だから有給の育児休暇を取得するのはとても大事である。

それから、アメリカでは小さな子供を一人で留守番させておくのは犯罪であり、バレたら親は即ジェイル行きである。なので出産後、マタニティリーブを経て、職場復帰をする場合、必ずベビーシッターさんを雇うなり、デイケアセンターに預けるなどする必要があることを忘れてはいけないのである。

広大なアメリカでは、子供だけでの留守番オーケーな年齢は州によって違うのだが、とにかく子供が小さいうちの夫婦共働きに関しては、この子供ケアのために月々10万円近くは出費として出ていくと覚悟しておいた方が良さそうである。さらに私立の小学校に通わせたいなど、スクールバスの路線外のエリアに通学させるとなると、安全上の理由から親の送り迎えが義務付けられるケースがほとんどで、母親が働いている場合、夫婦の連携プレーが必要となる。

日本を含め、仕事をしながらの子育てが多忙を極めるのは万国共通なのだが、「普段は忙しいから、子供が寝ている隙に、ちょっと近所のスーパーまでお買い物!」は、アメリカでは「バレたらジェイル行き」と心得ておこう。

日本のように、例えば『新社会人は4月から一斉に入社』的な習慣のないアメリカでは、就職に関し、常に門扉が開いている状態と言える。

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現地の大学を卒業するにあたり、面接のためのクラスを受講し、『面接の心得』なるものを講師からレクチャーしてもらったことがある。クラスの内容は面接までの手順レジュメ(履歴書)の書き方実際の面接ですべき事、面接後のフォローアップ等々……。

ざっとご説明すると、

①インターネット等で社員募集中という会社を探す。

②担当者を確認する。(名前だけでなく性別の確認も)

③面接の日取りを設定

④面接の前日までに必ず確認のメールなり電話を入れる。

これらはいたってオーソドックスな内容なのだが、ここで一つ重要なのが、担当者の性別の確認である。

英文の手紙などのレターヘッド等によくある『To whom it may concern』の一文、直訳すると『関係者各位様へ』となるだろうか、これだとスルーされやすく、やはりピンポイントで相手の担当者名を入れるべきというのは日本と同じ。

ただ、ここで日本と大きく異なるのは相手の性別が名前だけでは判断しにくい場合がある、ということで、これはある意味、死活問題に繋がったりもする(少し大袈裟だけど)。

以前、こんな事があった。かなり興味のあった会社が社員募集中で、担当者名も書いてあったので、早速レジュメを送ってみた。

ところが後日、担当者から怒りの電話を受け取るハメに……。

先方曰く「私はMr.ではありませんから!!」というワケで、勢いよく電話を切られてしまった。これ以降、この会社に連絡する勇気も失せてしまった。かなり興味のあった会社なだけに、理由が理由で連絡しづらくなってしまい、(やってしまった……)感が拭えず、しばらく凹んだのを覚えている。

それ以来、自分で電話し、まずは性別を確認する事を心掛けるようになった。担当者の声を聞けば、さすがに間違えることもないからだ。メアリーとかジムとか、分かりやすい名前なら必要ないのだが、人種の多い海外では、名前だけで性別を判断するのは危険である。

おそらく、相手からしても、我々日本人の名前は男女の判断がしにくいに違いなく、『様』を付ければ男も女も関係のない日本では、ある意味、盲点な失敗であった。  その他、レターヘッドやレジュメの書き方に関しては、日本のコンビニで売っている履歴書セットのような便利グッズはアメリカにはない。ビジネス書の書き方的な本やネットを参考に、自分で作成することになる。ある意味、人それぞれな履歴書になるのだが、やはり書き方には最低限のルールがあり、会社名や担当者名を入れる場所、文面の最後には『Sincerely yours』と自分のサインを忘れるなかれ等々……。まずはルールに沿ったお手製の履歴書作りが、就職への第一歩と言えよう。

海外で就職するには、当然の事ながらワーキングビザ(就労ビザ)がいる。

その取得方法はいくつかあるが、例えばアメリカの場合、現地の大学に通っている留学生の身であれば、卒業と同時に取得できるBA(Bachelor of Arts)を利用するのが一般的だろう。BAとは『日本の四年制大学卒に相当する』とされる資格で、これさえあれば、卒業後、1年間は合法で働く事の可能なプラクティカル・トレーニングビザ(研修ビザ)が自動的に降りる。(ただし短期大学や専門学校では、たとえ全てのカリキュラムを終了したとしても、このビザは降りないので注意が必要だ。)

アメリカ・ビザの種類と基礎知識|Lighthouse

ビザの有効期限は一年間で、名目も『トレーニング(研修)用のビザ』であるから、この1年の間に会社に掛け合い、研修中の立場から一般就職の立場へとステップアップが必要だ。これには会社がスポンサーになることで申請出来るワーキングビザを取得するのが手っ取り早い。

人によっては、この時点でグリーンカード(永住権)の申請に乗り出す人もいるようだが、グリーンカード取得に、どのくらいの期間を要するかは、ある意味、運任せである。

わたしの周囲では抽選で当たったというラッキーな人や、1~2年で取得できたという人もいるが、5年以上待ったというケースが何件かあり、そういった取得期間の差は謎である。現地の弁護士に聞いても、明確な解答は得られなかったと記憶している。

グリーンカード専門の弁護士に大枚はたけば手続きが早くなるとか、会社の規模が大きければ早いとか、国籍がどうとか、そういう問題でもないとの事で、いつ取得出来るか分からないグリーンカードだけに頼るよりは、会社を通して、先ずはワーキングビザの申請を始めてしまうのが懸命である。

その後、改めてグリーンカードの手続きも始めておけば「ワーキングビザが失効するんで国に帰ります、さようなら」とならずに済む。

ちなみに、このワーキングビザの有効期限は三年間で、有効期限が切れると次に更新する、新たなワーキングビザの有効期限は同じく三年間、よって最初のプラクティカル・トレーニングビザの有効期限の一年間と合わせて、合計七年間は合法で就職が可能である。

二度目のワーキングビザが切れたとしても、グリーンカード、すなわち『永住権』を取得していれば、何の問題もなく、そのまま半永久的に仕事を続けることが可能なので、長くアメリカで働きたいと思ったら、ワーキングビザを取得後、グリーンカード取得へと行動を起こすことをオススメする